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何が起こったのか。 リノリウムの床に、私が放った半透明の粘液が点々と天井の灯りを反射していた。 それを僅かな隙間から松田が凝視している。 私は自身に触れず射精してしまっていた。 見るな、見られたくないと願ったのに、体はそれを悦びと感知したかの様に瞬時に上り詰めた。まるで異常性欲者だ。 恥辱に耐え切れず視線を足元に落とし、肩で息をしながらも松田に気づかない素振りをするが、私を眺めていた夜神は計画通りとばかりに松田の視界に入る位置へ移動し、未だ快感の名残に熱を持つ私の耳殻に唇を寄せた。 「松田さんに見られて感じた?」 「っ………!!」 敏感になっている皮膚を夜神の吐息の震えが僅かにくすぐる。 視線さえ愛撫と感じる体は、達したばかりの過敏な肌へ届く吐息までも甘美な陶酔を呼ぶ刺激となった。 「ほら、まだお前を見ている」 「あっ あ … !!」 松田には届かない程度の囁きが私の耳内を愛撫する。 幽かに上昇した体温を感じたのだろう、夜神は征服者の笑みで私を見下ろした。 「まだまだ足りないだろう?…視線でイッちゃう淫乱な竜崎は、この程度じゃさ。僕もだよ、ねえ竜崎、今度は僕のを入れてご覧」 いい加減にしろと突っぱねる事は容易い。 だが、覚えた感覚のあまりの快楽に、体が抵抗を拒んで脚が動かない。 「悪いけど、下半身まるだしで睨まれても全然こわくないよ」 自分の状況に耳朶が熱くなる。こんな感情、知らずにいたかったのに。彼らに出会ってから、 見知らぬ自分にばかり出会っていく。 夜神は身動きせずにいた私の肩を掴むと、会議用の簡易机にうつ伏せに押し倒した。 自身の指で緩められた後腔を夜神の細長い指が探る。 その指の冷たさに私は僅かに内腿を引き攣らせたが、無体を強いる夜神を蹴り上げもせず、精神は内臓に施される刺激に集中せよと命じていた。 「あ、ん、ん………」 指の腹が濡れる臓器を撫で上げる度、喉が鳴る。ふ、と哂った夜神の吐息が首筋にかかり、滑稽な程私の全身は痙攣した。 悔しい。 こんなにも弱い体をしていた自分が情けない。 視線の先には松田。 うつ伏せの状態で長い前髪から窺う松田の顔は見えない。松田にも、おそらく私の顔は殆ど見えない。だが、彼の震える膝が、この行為を異常だと捉えている事を物語っていた。 単純で真直ぐな松田。明日から私と目を合わせる事はないだろう。 今も、汚物を跨ぐ様な視線で私を見ているのだろう。 暗い前髪の隙間から、ひややかな明るい蛍光灯の反対側に居る松田の膝を覗き見る。重たい気持ちでそのまま視線を上げると、鋭い鼓動が胸を射抜いた。 扉の陰で、松田はスラックスのフロントを寛げ下着に右手を差し入れていた。 「−−−−−−−−−−−−はあっ!!!」 急激に甘やかな痺れが脳を貫く。背中から私を組み敷く夜神がよく通る透きとおった声で笑った。 「…どうしたの?いきなり……。僕、性感帯でも見つけたかな?それとも、」 お前を見て欲情してるあの人の視線に欲情した? 耳元でそう囁く夜神の声で、わかりやすく質量を増す自身の性器に愛想を尽かすが、それを止める事などできない。見ている。松田が、私を見て、夜神の様に欲望を抱き、視線で私を犯していく。 松田まで………!! やめろ、見るなと叫びたかったが私の唇から発せられる声は、意味のない母音ばかりだった。 「あ!あ、ん −−−−−い、ィあっ……………!!」 ぐちゅぐちゅとわざとらしい淫猥な音をたてながら、夜神の指が直腸の壁を擦り上げた。歪めた瞼の間から、 松田が荒く息を吐きながら性器を上下に擦っているのが見える。 松田の視線は、夜神の指を飲み込んで惨めに震える私の尻に集中していた。ずくん、とまた奥に痺れが走る。 夜神の指が。松田の視線が。私の体をねっとりと舐め上げていく。 細いだけの醜い体を限界まで反らせ、淫らに頬を上気させた自分を視姦する瞳を皮膚で感じ消え入りたく なるが、私の肌は敏感に視線を刺激へ変化させ、脳の奥へ火花を散らした。 恥ずかしいのに。消えてしまいたいのに、快楽から逃れる事ができない。 「も、もう、やめて………!下さ、ああ、月く……っそこ、そこ 嫌で………!!」 「嫌ってことはいいんだ?」 「違います…っ ヒッ ああぁあ゛!!!あぁ゛!や、や−−− っ!」 濡れた肉孔に潜む性感帯を酷く指で打たれ、粘液を滴らせる性器を冷たい掌で扱かれる。前からも後ろからも ぐちゃぐちゃと卑猥な水音をたたせる私を見る松田は、はあはあと犬の様に呼気を荒げ、瞬きもせず自身を慰める手の動きを早めていった。 その手が夜神の手に重なり、私を扱いている錯覚に陥る。 「ははっ…いつもより全然声大きいじゃないか…竜崎は、本当に見られるのが大好きなんだね…」 その声に、ぴたりと松田の動きが止まった。 おそらく夜神は松田を見ている。蛇のような冷たい微笑で。 気づかれていた事を知った松田は、逃げるだろうか? そうしてくれ。これ以上、私の中を覗かないでくれ。見るな。誰も、こんな私を −−−−−−−−−− 「松田さん」 いつもの透明な声が扉の向こうの視線の主に呼びかけた。松田の体が跳ねる。 「来てください…………竜崎は尋常じゃない淫乱だから、きっと僕一人じゃ満足しない」 「ら…月くん」 松田は躊躇いがちに夜神の名をつぶやくと、よろりとふらつきながらこちらへ歩き出した。 「松田さんこそ、若いんだから…持て余してるんじゃないですか?日々の激務に追われて」 「そ…そりゃそうだけど……あはは、冗談キツいよ月く」 「本気ですよ」 松田の喉がごくりと鳴った。 「やめて下さい」 私の声は搾り出しても蚊の鳴く様な音量でしかなかった。 ここまで堕ちたか。快楽は人を堕落させる。ろくに祈った事がないイエスの教えが脳内に響き、 叫び出したくなるが夜神の掌が私の口を覆った。 「んうぅ…っ!!」 「どうせ口先ではやめろ嫌だとわめくでしょうからね、でもほら、萎えるどころか…」 「本当だ………。」 片足を夜神に持ち上げられた股間を松田が覗き込んだ。やめろ、誰か、もう、私を隠してくれ。 誰の目にも触れないところへ仕舞いこんでくれ。 ここに来る前の様に、機械の箱から漏れる青白い光とだけ対話していたい。 でももう遅い。 機械にはない欲望を持つ、人間の中に入っていったのは自分だ。 機械にはない、瞳を持つ人間の中に入っていったのは私なのだ。 人間とは−−−−−−−−− 2人の男の視線に、また浅ましい性器がひくりと震え反応を返す。 「まずは僕から…入れるよ、竜崎」 「ん、んんっ −−−−−−−−−−−−−−−−−−−!!!!」 細い肉管を引き裂かれる痛みに、喉がひぃひぃと引き攣るばかりで声も出ない。それを見つめる松田の目を全身の皮膚が受け止めて毛穴がざわりと粟立つ。もう、何も感じずに済むよう私は震える瞼をゆるりと閉じた。 「ははっ……ごめんね、切れちゃったけど…勃ってるねお前、さすがミサが変態と言うだけある」 「竜崎、すごい……こんなにとろとろになって………あ、また大きくなった」 だが視線は視覚を殺しても鋭敏に肌を刺激し、びく、びくと私の体を反応させた。 ここに来る前、ワタリが言っていた事を思い出す。 『少しは人間らしい生活をしてみるのもいいかもしれませんね。』 今まで人の視線など感じることがなかった私が、 生の視線で性感を得、悦楽に溺れる、これも人間らしさなのだろうか? わかるのは、人間は愚かだという事。 だからといって、こんな風に組み敷かれ、玩具のように踏み潰されていいものではないという事。 「ふっ……… くっう、や………あ………、あぁ……!」 動き出した思考は絶頂に弾け、散った。 じゃあ、どうぞ松田さん。そんな夜神の声が遠くで聞こえる。 熱を孕んだ松田の視線が体に絡むのを感じ、今度は己の愚かさを受け止める為に瞳を閉じた。 END 相沢さんも出そうと思ってたのに松しか出ませんでした捜査本部 リク主さまのご希望通りじゃなかったかもです; でも見られながらとか人目があるというのは一番好きなシチュなので、 なにかにつけ書くと思いますのでご容赦を…! 月も松もなんかやりたいだけみたいになってしまいましたが 根底には月には歪んだ愛情が、松には密かな恋心があったはずだと…! 竜崎はとてもピュアっこ設定の箱入り息子なつもりで書きましたー |