head> 視線2



そうして、私は毎日、昼夜問わず夜神に手を引かれた。

元々私は欲望には淡白な性質だ。まだ十代の健康な肉体を持つ夜神が性欲を持て余すのは理解できるが、 此れほどまでとは思わなかった。
今は、じゃらりと鎖が鳴る度にまたか…と溜息が出る。

「ここは嫌です。使われていないとはいえ、本部に近すぎます。せめて部屋に」

「そう?もう移動なんてしてられないだろ。服の上からでもわかるよ…勃ってるじゃないか?」


私の男根は硬い肉棒となり、弓状にジッパーを持ち上げていた。

「苦しそうだね…ジーンズ、膝まで下げちゃったら?」

「っ…ジッパーを下ろすだけで充分です……」

涼しい顔をして提案する夜神月が小憎らしい。

「そうかもしれないけど。より僕に見られる方が、お前興奮するだろ?」

返事をしない私を見て、 夜神は至極愉快げに微笑んだ。そしてジリ、とボトムのジッパーを引き下げ、若く猛った雄が露になる。

「僕はね、竜崎。お願いしてるんだよ。自慰行為がしたくて堪りません、でも"L"がそれを監視するというので 仕方なくLの前で自慰をします。僕との取引をのんでくれたお前の自慰を見ているうちに、お前じゃなきゃ 勃たなくなってしまいました…だからどうか、僕の望む様にペニスを扱き亀頭を擦って、涎を垂らしながら オナニーしてるところを見せてください、てね」

屈辱をあおるような下品な物言いにうんざりするが、覚えてしまった羞恥に耳朶は熱くなっていく。 これ以上、こんな感情を覚えるのはとても我慢がならなかった。

「では、あなたは自慰をしなければいい。今までの様に悶々と抱え込みなさい。私はもう御免です」

「御免なんて状態じゃないだろう?」

「っ…………っ  触る、な………!!ああ!!!」

夜神の指がジーンズの布地を突っ張らせた私の下肢に触れた。途端に甘美なうねりが湧き上がる。私は夜神から 逃れる様に壁に背中を押し付けた。

「触るのは、触るのは約束違反です!そんな取引はっ…やっ…め、………はぁっ………あ……」

徐々に消え入る自分の声に失望する。
やめろと言いたいのに、体がそれを拒絶していた。

夜神の掌は動けぬ私を同意とみなしたか、布の上から陰茎を握りこむと、快感を搾り出す様に激しく根元から 擦り上げた。


くる。  きてしまう。

「らいと、くん……!!もう、本当に、…ふっ… !……くっ、−−−−−−−−−−−っ!!!」

脳を貫く甘い稲妻に、必死で唇を噛む。だが耐え切れたのは声だけだった。雷音で耳鳴りがする遠くで夜神の 声がぼんやりと耳に届いた。霞む目に美しい微笑が映る。

「イっちゃったね…着たまんまで」

「あなたが…悪戯するからですっ…」

私は呼吸と整え、どうという事はないという無味乾燥な表情を作ろうとしたが、それも次に夜神の放った言葉で硬く頬が強張る結果となった。

「ごめんね。竜崎は見られながらオナニーする方が好きなのにね…手を出して悪かったよ」


快感を放って緩んだ下肢に力が入る。

「僕、まだイッてないし。いつも通りしてもらうよ…ジーンズを膝まで下げて」

「嫌です」

僅かに飲み込んだ唾液に気づいただろうか。
私の足はこれまで感じた事のない激しい羞恥と屈辱に震えていた。
それを知ってか知らずか、夜神は美しく微笑を湛え、恐ろしく汚い言葉を吐いた。

「どうしたの?いつもくねくねしながらオナニーショーを見せてくれただろう?僕の前で精液を撒き散らした じゃないか…そうか、竜崎は、



見られないと感じない体になったのを認めたくないのかな?」


見られる。

「はは。また勃ってきた」

言い逃れできない体の変化に、私は夜神をただ睨みつけるしかなかった。

「いつも見られながらしていたから、視線なしじゃお前感じない体になっちゃったんだよ…体が学習したんだね、 賢いね、本当にお前ってやつは……。−−−さあ」

夜神は自分の性器に手を添え、私に熱い視線をからめた。

「脱げよ。膝まで」



息が乱れる。
布地を握る指が戦慄く。
駄目だ。冷静に。こんな事、まるで平気だと目で嘯け。

「竜崎の太腿、さっき出した精液でベトベトだね…気持ち悪かっただろう、服着たまんまで」

夜神が自らを慰めながら、私の脚に触れんばかりに近づいた。内腿に息が吹きかかる。

「はっ………あ、ぁ、…ら、らいとくん、…触らないでくだっ…」

「触ってないよ。…もしかしてこれくらいで竜崎は感じちゃうの?」

「っ!!」

冷えた白濁がはりつく皮膚の薄い内股に、夜神がふうっと息を吹きかけた。ぞくりとした刺激に思わず膝を合わせると、 夜神の鋭い視線がそれを制止する。

「足、閉じるなよ…見えないだろ?かわいいね竜崎、そんなに膝を震わせて…僕に見られて興奮してるんだね、 光栄だよ世界のLをこんなに感じさせる事が出来るなんて」

小さく、ちがいます、と言ってみたが何が違うのか自分にもわからなかった。そんな言い訳は夜神を喜ばせるだけだ。
そんな馬鹿な発言をしてしまう程、羞恥というものは惨めな感情だった。惨めなのに、恥ずかしいのに、

確かに私は感じている。

「ねえ、僕らはおかしくなっちゃったんだよ、竜崎。僕はお前じゃないと勃たない、お前は僕に見られないと 勃たない…おかしいね、探偵と容疑者なのに僕らはパートナーみたいだ…」

何を言っている。夜神月、お前はただの容疑者でしかない。
元々言い出したのは私だ。本気で嫌だと突っぱねるのは簡単だったが、生来の負けず嫌いな性格が 災いした。惨めなのも、感じてしまうのも、自ら選んだ事なのだ。
−−−−だから。今は。

「指、お尻にさ…入れてみてよ。意外と気持ちがいいらしいよ?」

私は夜神を瞬間睨みつけると、恐る恐る肛口をさぐった。窄まった排泄器官を探し当てると、唇を噛み締めて 指を押し進めた。初めての感触に膝の震えが止まらない。肉壁は異物を吐き出そうと収縮し、なかなか侵入を 良しとしなかった。

もうちょっと……

あと、どのくらい挿れれば夜神は納得するのだろうか?

第一、二間接ほど進んだだろうか。私は固く閉ざしていた瞼をうっすらと開き、夜神を盗み見た。
刹那、弾かれた様に体に熱が走った。

見ている。私を見て、興奮し扱いている。

酷い屈辱を味わうと同時に、ずくりと後膣が疼いた。

「んぁ……!!!」

「…そこ、気持ちいいの?」

夜神の息も、私の嬌声を聞いて上ずっていた。

「今の、気持ちよかったところ、…もっと弄ってごらん」

「う…………………」

指を揺らす。ずくんと快い刺激が脳を痺れさせる。

「そうだよ…そこかい?そう、指を出し入れして、ぐちゅぐちゅに音を出して。ほら、前もトロトロじゃないか… もっと擦るんだよ、竜崎…」

何かに操られる様に私は後孔に潜らせた中指を動かし、陰茎を擦る指の速度を増した。


ああ。あああ。あああああああ。

気持ちいい。気持ちいい。気持ちいい。

ぐちゅぐちゅと淫靡な音が私の中から沸きあがる。前からも後ろからも。

卑猥な水音に心を奪われていると、突如こちらに向かって固い床を走る足音が耳に入った。
誰か−−−−−−−−−来る。

自分がこんなに慌てるとは、と思うほど私は焦って指を抜いた。ぬぷっと音をたてて排出された刺激にまたも声が上がる。

「っぁ、んうぅっ!!」

「ほら、さっきと同じ竜崎の悲鳴が…!」

松田だ。 こんなときばかり気を回してくる。
私は唇を噛んで声を堪えた。だらしなく先端から透明なカウパーを流す性器を仕舞おうと触れると、またじわりと 甘い痺れが起こる。
こんな時まで………!!どこまで私の体は快感に弱いのか。今までありとあらゆる事に耐える訓練を受けてきたが、 快感に耐える術は知らなかった。性感を甘くみていた、これは報いか?足音は扉の前で止まった。

よかった。扉が開かれる気配はない。そう思い、自分の正面にある扉に視線を流すと、息が止まる事態が私の 網膜に焼きついた。
扉は開かれていた。わずかな隙間ほどだが、扉を全開せずとも私の姿が見える。松田なら、私の悲鳴のような 嬌声に心配してやってきたのなら勢いよく考えなしに扉を開けるだろう。これは、夜神の仕業だ。
誰かがやってくるのを想定して扉を閉めなかったのだ。
何故?
考える間もなく、大きく見開かれた松田の視線が体に絡みつくのを感じた。

「あぁ!!あっ−−−−−−−−やっ………だ………や−−−−−−−−−−!!」

見るな。見るな。私を、見ないでくれ。

淫らな自分を知られたくない。夜神月以外には知られたくない。

だが私は、信じられないと言いたげな松田の視線を全身の神経で感じ、手を触れない状態で大きく性器を反らせ、 びゅくびゅくとそれを揺らしながら熱い白濁を放ったのだった。