暴力は深夜にまで及んだ。
こいつの足は危険だ、と足にもテープを巻かれた竜崎は、軽蔑を込めた瞳が更なる彼らの怒りを招き、 相沢以上に殴られていた。

「だめだよ…言わねーよ、こいつら…」
肩で息をしている青年達の方が疲れた様子を見せている。

「死なない程度に加減してっからダメなのかな…」
「そうかもな」

金髪が、ふと宙を見上げてにやりと哂った。

「言いますから、やめてくださいって言わせるのは………殴るばっかりじゃないんだったよ」
さも楽しそうに乾いた唇を舐める。その形相は醜悪にゆがんだ。青年達は少し相沢達から離れ、密やかな声で 何か相談をしている。陰を含んだ笑い声から、ろくでもない内容には間違いないようだった。

「でも男だぜ?」
「男だから耐えられないんじゃねえか」
「おじさんじゃなあ」
「まあ どっちと言われれば若い方だろ」
「あー……でも、おれあのおにいちゃんに勃つ自信ない……」

最後の台詞で相沢はこれから行われる行為が何か確信した。そういう事件もいくつか担当した事がある。でも、まさか。 まさかと思いたかった。まさか、こいつら、竜崎に。だが僅かな祈りは簡単に打ち砕かれた。
「おにいちゃん、ちょっと寒いけど我慢な」
金髪がそう言うや否や、ナイフで竜崎のシャツを切り裂いた。刃物の先端がかすかに竜崎の肌にふれ、胸の間を 短い紅の線が伝う。竜崎は少し顔をしかめ、青年を睨んだ。
「今度はなんの真似ですか」

「言っただろ。Lって誰なのか言いたくなっちゃう事をするんだよ」

シャツを取り去り放り捨てると、今度は後ろからジーンズを裂きにかかる。先ほど体に受けた小さな傷に、 万が一更に傷を受ける事を想定したのか竜崎は身動きひとつしなかった。

「やっぱガリガリだなあ おにいちゃん…そんなんじゃ女の子も喜ばないよ」
「別にいいんじゃね?今から喜ばすのは男なんだし」
手足を拘束され、全裸で床にころがる竜崎を青年達は下品な言葉で品評した。やや長めの黒髪に、いつも纏っている緩めの服を剥がれた 竜崎は、敵に落ち鎧を外された武者の様だ。丸めた薄く白い裸体は哀れで、相沢はそれを正視できなかった。 竜崎も、もはや相沢と視線を合わせようとはせず、だが青年達を瞳で蔑む事は忘れていなかった。

「もう、やめろ…。言っただろう、その子は本当に関係ないんだ。」

相沢の言葉を聞くものはいなかった。
青年達はもう、関係の有るなしはどうでもいいのだ。
これから始まるゲームが楽しみでたまらないのだ。キラにかこつけて、本当は残虐な遊びをしたいだけ。 お前らこそ、キラに裁かれるがいい。相沢が彼らを呪う言葉を吐き出そうとした時、信じられない台詞が 脳に響いた。

「おじさん、このおにいちゃんイカせてあげて」

淡々と青年達を睨みつけていた竜崎の瞳が大きく見開かれる。それは相沢も同様だった。

「な …  に  …  ?」

急激に喉が渇く。湿り気のない相沢の喉から引きつった声が絞り出された。
相沢の拘束が解かれる。かわりに首に、ろくでもない遊びに使うのだろう輪をはめられ、そこからのびるやや長めの鎖は また柱に結び付けられた。
「やらないと、こいつのここ、使い物にならなくなっちゃうよ… それくらいなら死なないしね」
金髪は、先ほどのナイフを竜崎の男性器にあてがう。びくりと竜崎が刃物の冷たい感触に体をわななかせた。 こいつらは、やる。どっちでもいいのだ。性器を切り落とすのも、自分に竜崎の体を弄ばせるのも、遊び。 そう思うと、相沢は眉間を寄せながらも竜崎に手を伸ばすしかなかった。

「…竜崎、失礼する」
竜崎が不自由な体を捩ってずり下がる。
「やめて下さい」

竜崎が小さく、だがはっきりとした口調で拒絶を示す。
「おにいちゃん、嫌ならLが誰か言えば終わりにするよ?」
にやにやと下品な笑みをたたえながら青年達が言う。この程度で竜崎が屈服するとは露ほども思わずに。

「相沢さん、私はあなたにそんな事をさせたくありません」
いつもどこかとぼけたような口調の竜崎が、真剣な声で訴える。
「だが、切り落とされるよりましだろう!俺だってしたいわけじゃない!」
相沢はそう叫ぶと、どうにでもなれ、と竜崎の萎えた男性器を握り締めた。

「っ………」
竜崎は息を飲むと全身をこわばらせた。頼むからさっさと達してくれと、相沢は力任せにそれを上下にしごく。
「あ、相沢さんっ……痛っ………」
「す、すまん…!」
痛みに首を縮める竜崎に、相沢は慌てて謝罪した。竜崎のそれは萎えたままだ。
「りゅ、竜崎、目を閉じて相手は俺じゃないと考えろ。かわいい女だ。お前好みの」
「こ、こんなごつい手の女がどこにいるっていうんですか…!」
全く同感だ。竜崎も、毛の生えた相沢の手が見えるよりましだとばかりに両目を閉じた。

痛いなら、優しく扱わねば。竜崎の想像を邪魔しない、女がするような優しい扱い方。

「ん…」
小さく竜崎がうめく。相沢は出来る限り繊細に、そこを攻めた。やわやわと指の先で裏筋をたどり、 掌ではなく指で全体を丁寧に擦る。時間はかかったが、少しずつそれは頭をもたげ始めた。
「おっ勃ってきましたよ〜?」
「おじさんの手、気持ちいいの?おにいちゃん」
青年達が下卑た喝采を2人にあびせる。 「よく見えねえよ。足ひろげさせようぜ」
耳障りな口笛は、ゲームを提案した金髪の発言でぴたりと止んだ。その青年が竜崎の足の拘束と解くと、即座に 竜崎は顎めがけて蹴りをくりだした。
「いってえええ!おい、足押さえろ、片足2人ずつな!!」


後ろからゲーム提案者の青年に背中を支えられ、冷たいコンクリートの床に直に座らせられた竜崎は、 両足を4人がかりで高々と持ち上げられ、相沢の前にすべてをさらけ出していた。股間から、 誰にも見せた事はないであろう秘部まで。瞳は夢を見るようにゆるく閉じたままだが、唇のこわばりから 歯をくいしばっているのがわかる。
白い腹には数えられる程はっきりとあばらが浮き、だが薄い筋肉のついた平らな胸が、 ひかえめな呼吸音とは対象的に大きく上下していた。何も隠す事ができない華奢な体の 中心を、相沢の男性らしい大きな手が嬲っている。それは相沢にとって子供を虐めている様な、残酷な行為に思えた。
「竜崎…ちゃんと考えてるか?かわいい女だぞ!」
竜崎の性器は中途半端に立ち上がったが、そこから先にはなかなか変わらない。
「か…考えてますよ…」
「じゃあどんな女だ!」
「………」
考えていないな。相沢は思った。何も考えず、または別の事を考えて快感を逃しているのだ。確かに見ず知らずの男達と、 仕事仲間である自分の前で達するのは想像以上に恥ずかしい事だろう。だが、その為に性器を壊されてもいいのか。 相沢は竜崎の強情さに半ば苛つき、そこを掌全体で握りなおして根元から先端を擦るスピードを速めた。

「−−−−−−−−−−−−−っ……………!!!」

竜崎が白い喉をのけぞらせる。
「あ、いいじゃん。おじさんが下手だったんだよ〜」

うるさい。力は加減しているが、このくらい乱暴に扱う方が快感を搾り出せるのか。修羅場をわたってきているだろう 竜崎らしいな。女がする様に優しく触れようとしたものの、不器用な相沢の指では半端な快感を与えるに 留まっていたのだろう。心ではどうあれ、更なる波を待っていた竜崎の体は、相沢の強引な愛撫を明らかに喜び、 掌が上下する度ぴくり、ぴくりと硬さを増していった。
相沢は、触りたくもない男の性器をいつまでも弄らせられている事に苛ついていた。さあ、さっさとイってくれ。 その感情は更に手の動きを乱暴にした。雑に擦り上げ、男の一番感じる部分を強めに指の腹でさする。
「っ、っ、い、痛…!ああ!」
痛みを訴えようと口を開いた竜崎から嬌声が漏れる。竜崎から発せられたとは思えない甘い声に、思わず相沢は 手の動きを止め、竜崎の顔を見た。目が合うと、竜崎は隈の濃い目の縁を赤らめ、うつむいた。
瞬間、かわいいと思った自分に相沢は気づき、かぶりを振った。普段しゃあしゃあと人を食った態度の竜崎だから、 恥らうところなんて想像もできなかったから、それだけだ。そう心の中で言い聞かせた。

「いいじゃん、今の声。もっと聞かせろよおにいさん」

竜崎を羽交い絞めにしている青年が唇を舐めながら言った。だが竜崎はそれから固く唇を閉ざしたままだった。
「ッチ…おい、あれ持ってこい」
青年が舌打ちをして、右足を抱えている一番年少らしい青年に命令する。
「あ、あれってアレ?もったいなくね?かわいい子つかまえたら使おうって言ってたじゃん」
「だってこいつ…腹立つくらい強情だからよ。ムカつくんだよ。ヒイヒイ言わせたくね?」
「まあ、確かに…」

あれとは、恐らく、更なる暴力を加える凶器か薬か。息を詰めて相沢と竜崎は、命令された青年が消えていった 扉を見つめていた。そして答えは2人を打ちのめすのに十分なものだった。

両方。

そして、それは凶器でもなかった。−−−−−−道具。
大人が性を遊びとして楽しむ為の、玩具だった。
ガラガラと安っぽい色をした道具が床にぶちまけられる。ローターに、男性器をかたどったバイブ。そして 何に使うのかさえわからない物達。
相沢はいたって正常な性癖の持ち主だった。ネットや犯罪現場でそれらを見た事はあるが、使ったことなどない。 それに。
「イカせりゃよかったんじゃないのか…?これは、やりすぎじゃないのか?」

男達に気づかれない程度に竜崎が震えたのを相沢は見逃さなかった。普段あれだけ一緒にいるのだ。 いつもはあまり表情がかわらない分、竜崎の些細な変化は相沢には大きな違いだった。

「だっておにいちゃん、おじさんの手じゃイカないかもしれないじゃん?
おもちゃは保険だよ、保険」

「使うわけじゃないんだな!?」
「んー…でも、こっちは使わせてもらおうかな」
念を押す相沢に背を向けたまま、スキンヘッドが注射器を握る。
「大丈夫、俺ら何度もこれ使ってるから。おにいちゃん 手 出しな」