「どいつもこいつも狂ってますね!!」

吐き捨てるように竜崎が叫ぶ。バスルームの冷たい床に点々と溜まった水滴が竜崎の薄いシャツに染み込み、 僅かにその背中を震わせた。そんな仕草にすら昨夜を思い出し息が熱くなる。

「狂ってるって?今の僕はまともじゃないと認めてくれるんだね。突然の超常現象に 僕はきっと正常な状態ではなくなっているんだ…。だから、竜崎、許してくれ!」

膝で彼の内腿に体重を乗せ、空いた両手で性急に自分のジッパーを下げた。すっかり臨戦態勢の僕に 絶望のうめき声を漏らす竜崎と対象的に、ダッシュ達は、ほお、と感嘆の声を上げた。

「成る程、あなた本当に攻める側なのですね…うちのライトくんは私を見て勃ってはくれませんので」

「ちょっと、この顔見て勃つのか!?どういう趣味してるんだ!!」

「なにげに2人共失礼ですね…”私 ”までなんだか自虐的じゃないですか……」

言いたい放題の別世界の2人に拗ねる竜崎が可愛くて僕はどんな女の子にも向けた事がない最高の笑顔で微笑んだ。


「まあまあ、気にするな竜崎。僕はお前に勃つ!!お前の魅力をわかってる僕がいるんだから元気を出せ!」


「更に最悪な気分になりました……」


「それでは月くん」

竜崎’がしげしげと僕のjr.を眺めながら口をはさむ。

「挿入したいわけですよね?彼の服を取り去りましょう。脱がそうとしても抵抗するでしょうから、これで」

竜崎’はバスルームに備え付けられていた剃刀から歯を抜くと、あっという間に竜崎のジーンズを切り裂いていった。

「…………自分の敵は自分、といいますが…全くです。”私 ”だけは敵にしたくなかった、今心の底から そう思っています」

「それは光栄です。こんな状況でなければ私もそう思ったでしょう」

竜崎’が魚を下ろす様にジーンズを前と後に分け、細い紐状に裂くと僕らにそれを渡した。 3人がかりで竜崎の腕を開いた内腿の上から足首の下へと通し、この伸縮性の無い固い布地で手首と足首を きつく縛り上げる。

「これで足を閉じる事はおろか身動きさえできません。」

一見自ら秘部を晒している様にも見えるその姿勢がどれだけ屈辱か。

僕なら舌を噛んで死にたくなる程の惨めな姿だ。

すると僕’が僕に囁いた。


「僕、このまえ、これやらされたよ……」



死のう。


だが竜崎は、表情だけ見ていると、とてもそんな姿勢をとらされているとは思えない。
僕ら3人を睨む鋭すぎる両眼は無機質で、そのアンバランスさが奇妙な色香を生み、更なる恥辱を与えてみたくなる。

…僕にこんな部分があったなんて。

やっぱり僕はキラなのか?

首を突き出し一点を見つめる竜崎’の視線の先は、冷えた空気に晒された竜崎の萎えた性器。
しげしげと観察する、ぶしつけな竜崎’の視線を竜崎は不愉快そうに目を細めて見つめかえした。

「私を嫌う人の気持ちがわかりました。ちょっとは遠慮して下さい一応そこは隠されるべき部分です」

「自分に見られて照れる事もないでしょう…いやあ受けでもサイズは変わらないんだなと思いまして」

「お前の目が気味が悪いと言っているんですよ!入れられる方だったからって小さいとでも思ったんですか侮辱です!!」

「おまえこそ自分の顔に対して自虐的な事言ってるぞ、竜崎」

下半身は待機だけど口ではツッコんでみる僕。

「『ショックです…………』」

「『またハモッってるよ…………』」

ヘコむ、W竜崎と呆れる僕ら。
三流コントの様に僕らはお互いの自分と同調しあう。計算した様な奇跡のシンクロ。

竜崎’もそれに気がついた様だった。

「自分の体は知り尽くしている…どうすれば興まるかも知っている…もしかしたら。あのですね、”私 ”。 −−−−−あなた相当気持ちの良い事になってしまうかもしれませんよ?」

自分の仮説に自信があるのか、竜崎’は得意気ににたりと微笑んだ。負けずに竜崎が別の仮説を建てる。

「知り尽くしているからこそ、つまらないものになると私は思いますね…」

言い合い合戦、頭脳戦。2人の竜崎が待ち望んでいたものだ。受身を強いられている僕の竜崎はともかく、 竜崎’の方は昔見た”竜崎 ”の異様な濃度の得体の知れなさを取り戻していた。

「では、攻めの私は指示に徹しましょう。自分を介して他人の肉で施される刺激なら、快楽を呼び起こすかもしれませんね… ライトくん!!」

「…なんだよ……」

立場は竜崎と同じ受身、僕’は男の体になど興味がないのだろう。迷惑そうに上目遣いで竜崎’を見る。 それをわかっているに違いない竜崎’の指令とは。

「こちらの竜崎の陰茎を擦りなさい」

「わかったよ…」

可哀想な僕’。嫌だろうに、まるで逆らえないのか。まあでも竜崎の陰茎を、こ、擦るくらい、

「そちらの月くんは、はやく入れたいでしょうがまずは中を丁寧にほぐしてあげてください」

「よしわかった!!」



喜んで!!


居酒屋の店員並に大げさに快諾する僕に、竜崎はわざとらしい溜息をもらした。


「もう……勝手にしてください。ご自由に」


竜崎は感じるわけがないとばかりに瞼を伏せて投げやりに天井を仰いだ。だが僕’の、汚いものでも触る様な手つきで性器を摘ままれると、 僅かに肩を震わせた。




そうだ。あの手つきは竜崎と似ている。



「そう、”私 ”は親指と中指の二本で輪を作り、竿の部分を擦ります。人差し指は主に亀頭を中心に」

竜崎’の指示に素直に僕’は従って二本の指で輪を作る。”竜崎 ”らしい変わったやり方だ。

根元から雁首までを僕’の長い指の輪が往復する度に、竜崎の陰茎は質量をびく、びく、と増していく。

「そろそろスピードを速めて、人差し指は雁から尿道口に向けて指の腹で上下にさすって下さい。もっともっと! もっと速く!…そう、その調子です…ほら、気持ちがよくなってきた……」

竜崎は唇を固く閉ざしていたが、荒くなる呼吸で上下する胸の動きは隠せなかった。その唇を解けば一気に甘い吐息が 溢れるのだろう。

その声が聞きたい。
甘く熱い呼気を胸の奥まで吸い込みたい。

僕は昨夜傷つけた小さな蕾を壊さぬ様、そっと中指を竜崎の閉じた秘所へもぐり込ませた。

「……………ンッ…………」

微かに竜崎は呻いたが、声は上げない。むしろ不快そうに眉間に皺を寄せた。
それを見た竜崎’がちょんちょんと僕の肩をつつく。

「月くん。あなた方は昨夜が初めてなのでしたっけ?」

「そ、そうだけど…何?僕が下手だとでも言いたいのか?」

百戦錬磨の風格漂う竜崎’に、まるで昨夜まで童貞だったみたいに言わなくてもいい事まで言ってしまう。 事実男相手は初めてだったのだから仕方がない。女の子なら結構人数こなしてるんだけど、とプライドに負けて これまた余計な事を言いかけた僕の口に竜崎’は人差し指をあてて制し、途中まで竜崎の中に挿入した僕の指に触れた。

「そう、下手です月くんは」

「な……!」

「腸内を愛撫するなら、指の腹は相手の腹側に向けなさい。そう、あと少しだけ奥に入れて」

ひしめく肉を押し拡げ、ずぬりと狭い穴を指が進む。

「感触が変わったところがありませんか?指の腹で押してみてください。しこりの様な部分を見つけられますか?」

たしかにやや固さを感じる所がある。そっと押してみると、天井を仰ぐ竜崎が瞼を更にきつく結んだ。

「見つけたようですね。では、指を内側に曲げて、腸壁を持ち上げる様に強めに刺激してください」

「こ、こう?」

「ヒッ!!!」

言われた通り指を腹に向け、ぐ、と腸壁を強く押すと突如竜崎が弓の様に背をしならせ、喉を鳴らした。 え?何?今の?

「覚えておいて損はないですよ。肛門性交でも相手を喜ばす事はできるんです。その悦びは人によるのですが…、 月くん、テンポよく一定のリズムを保って彼に刺激を。ライトくんもサボらないで動く!」

正直言って昨日は挿れる事しか考えてなかった。
感じてくれるのなら、それは僕にとっても悦びだ。僕は真剣に、ぐ、ぐ、とそのしこった肉壁を 何度も叩いた。その度に竜崎の蕾はきゅう、と僕の指を締め上げ、細長い足指は切なげに戦慄く。どんなに声を出すまいとしても 竜崎の体は正直者らしく、感じてますと言わんばかりの反応を返してくれる。
それがとても嬉しくて僕は時に強く、弱く波の如く指を働かせた。

「………っ…………っ!…んっ…………んぅっ………」

内臓と性器を同時に愛撫され、竜崎は目尻を紅く染めて喉の奥からくぐもった音を漏らす。 それを竜崎’はTVでも見るかの様に感情のこもらない丸い目で下唇を引っ張りながら見下ろしていた。

「…私は抱く側の者として中々たいしたものだという自負があるのですが、どうやらあなたは 抱かれる側としての才能を持っているようですね。男性に興味がないわりに数度の愛撫で勃起している。 精神的なものはあなたの体にはさほど関係ないらしい。」

それこそTVの感想でも述べているような淡々とした口調でとんでもない内容の発言に、快感を逃そうと闇に逃げていた 竜崎の瞳が開く。
元からの熱と甘い疼きに潤んだ竜崎の目がもう一人の自分を捉えた。

「……ど、ういう意味で、すか………!」

竜崎’は竜崎の黒髪を撫でながら、耳元に唇を寄せてその鼓膜に直接囁いた。

「あなたは抱かれる側として大変優秀だと言っているんです。さすが立場は違えど”私 ”です。 あなたは大変感じやすい……いやらしい体をしている。これを武器にしてはどうですか」

「なに、を馬鹿な…………あはぁあう !!!」

竜崎’が、動きが緩慢になりはじめた僕’の手を掴んで上下に動かした。薄紅色の亀頭が膨れ上がる。

「月くん、そろそろ指を増やして下さい。物欲しげにひくつきだしてはいませんか?」

そんなわけない、と言いたげに竜崎はかぶりを振って汗に濡れた黒髪を散らすが、指の力を抜くと本当だ、 確かにずるりと中に吸い込まれる。

こいつ……昨夜からあれだけ僕に軽蔑の眼差しを向けていたくせに。

肛門に欲情するなど正気の沙汰ではないと僕の愛情を愚弄したくせに。

お前こそ、そこを弄くり回されて悦んでいるじゃないか。


なんだか腹がたってきた。



頬を染める竜崎は可愛らしいけど、途端に泣かせたくなってくる。



昨日の傷を拡げない様注意を払って指を挿入していたが、僕はさっき自分がキラか確認する為に酷く抱くと言ったんじゃないか。 だから竜崎だってこんなこわごわの僕には、違和感を抱くだろう。

だからだよ、竜崎。

こんな事をするのは本意じゃないんだ。これも僕の計画のひとつ。わかってくれるよね?



僕は傷が裂けるのもお構い無しに、一気に3本の指を挿入した。








誰が誰だかわかりにくくてすみません…