ゆらりと竜崎’が立ち上がると、その緩慢な動きからは想像もつかないような力でクローゼットの扉を 蹴りつけた。扉が開く。というかはずれる。

「月くん !! 」

「月くん、何処ですか !! 」

竜崎’は声を張り上げてクローゼットの中を覗いた。

「隠れても無駄ですよ…私から逃げればお仕置きが待っているのはわかっているくせに、 学習しませんね月くんは!!」

「僕’を見くびるな竜崎’!この僕がそんな逃げ場のない所に入るわけないだろう!?」

「ではあなたならどこに逃げますか」

僕の竜崎が興味深げに僕に尋ねた。

「そうだな、この建物の中にいるとは思えない。本部の皆に会わないよう外に出て、家に戻って とりあえずこちらの夜神月になりすまして一晩くらいやりすごし…」

「だそうですよ」

「ありがとうございます」


しまった逃げてくれ 僕’!!


竜崎に礼を言った竜崎’は、溜息をついただけで動かなかった。そして残念そうに僕に向き直る。

「ありがとうございます…と言いましたが…うちの月くんはこの部屋にいると思います。 時間の経過からするとまだ彼は外に出る準備ができていない。」

「?どういう事?」

「月’くんは」

竜崎’はまるで表情を変えずに言葉を続けた。


「まっぱだかです」



  うん……… さすがに裸道中はしないね …………… 。



「と、いう事はまあここでしょうね」

竜崎がバスルームの扉を開けた。そこにいたのは、まぎれも無い「僕」。


「やあ、竜崎2人と僕……」

僕’は湯船に身を沈めながら、にこやかに、だが少々唇の片端を引きつらせながら挨拶をした。

「おい僕’…お前なにやってるんだ…?」

「逃げたわけじゃないさ!ただ体が冷えたんで風呂に入りたくなっただけだ!」

「『それにしてはお湯がからっぽですが』」

ハモる名探偵二人。

「い、今からお湯をはろうと思って…!!逃げたんじゃない、本当だ!!」


必死だ。この僕’は本当に竜崎’にお仕置きとやらを受けているんだ。

ふざけるな。

寒さか屈辱にか、震えている憐れな僕’。

なんて可哀想なんだ。酷いじゃないか。

竜崎’への怒りが湧き上がる。僕になんて事をしているんだ。「お仕置き」だって?なら、そんな事を 僕にしているお前にこそお仕置きが必要だよ。
僕は瞬時に計画を練ると、竜崎’の肩を掴んでこちらを向かせた。

「竜崎’、お前は僕’が性的暴行を受ける事によって内に眠るキラが目覚めるかもしれないと 思っているんだな?」

「ええまあ…。まあ、ついでに目覚めてくれるといいなといいますか」

「なんだと?」

じろりと竜崎’が汚いものでも見るような目つきで僕を睨む。

「私は今の”あなた”が心底鬱陶しい。退屈極まりないんですよ…。気味が悪いくらい清廉潔白で、”あなた”を見ていると、 滅茶苦茶にしてやりたくなる。それが本音ですかね。そのついでにキラが目覚めてくれたらなあ、と」

そう言うと竜崎’はぼりぼりと頭を掻いた。つまりはうちの竜崎と同じで、今こいつは捜査に身が 入っていない。やる気がないわけだ。
そして、キラではない僕に、興味はないという事だ。僕’はただ、八つ当たりの対象にされているのだ。

僕の正義感は激しく興まっていった。許せない、こんな行為は。
同じ理由で僕を無視するうちの竜崎の方がずっとましだ。

−−−−−−そう、キラではない僕に用がないなら。
この”僕”に別の存在理由が必要だ。

僕はすっかり冷えたわずかなお湯の中で震える僕’を見た。
彼は陵辱の対象となった事で竜崎’から存在を認められているんだ。

そんな行為の対象にされるのは御免だが、ひどく羨ましい。”竜崎”に、僕が愛してやまない”竜崎”に、 どんな形であれお前は認められているんだ。では、竜崎の中に僕の存在を刻みこむには?
そして竜崎’に制裁を与えるには?



僕は計画を口にした。


「竜崎’、うちの世界はお前の世界と真逆なのはわかってもらえたな。だとすると、もしも僕がキラで二重人格だとしたら、 ……僕に、うちの竜崎を滅茶苦茶に陵辱させる事でキラとして覚醒する…とは思わないか?」

「滅茶苦茶なのはあなたの頭です月くん」

熱のせいか口数の少ない僕の竜崎が間髪いれずに僕を制した。はは、こっちの世界で必死なのはお前の方か。

「僕は本当は紳士だ、そんな風にお前を抱きたくはないんだけどキラ逮捕に協力したい!! 僕はキラじゃないけどもしお前たちが言うように僕の中にキラがいるなら、逮捕していいんだ!…その為には 僕の中のキラを確認しなきゃいけないだろう!?」

「どこの紳士が発熱中の想い人を押し倒すっていうんですか!!」

僕は竜崎をバスルームの床に押し倒していた。本当だよ、本当にお前に酷い事はしたくないんだけど。

「キラ逮捕の為に心を鬼にして押し倒しているんだ!わかってくれ!!」

「わ、わかりませんよ!!ちょっと、そこの”私”…!!”月”くん!!見てないで助けたらどうですか!!」

ぽかんとしている僕’はともかく、竜崎’は興味深げに唇を弄りながら僕らを見ていた。

「…まあ… ”自分”が犯されそうになっているのは面白くないので助けたいのは山々ですが…。 もしかしたら本当にキラ逮捕に繋がる可能性があるとしたら、あなたも観念して今日くらい試してみても いいのではないかと………」



竜崎’、GOODJOB !!!


「……………………さすが私ですね…。手段は選びませんね……というより人事だと思ってませんか…」

竜崎は自分を見下ろすもう一人の自分を忌々しげに見つめた。

「自分自身でないのは確かです。いや、もしかしたらこれは夢ではないかと思っているんです。 夢ならなんでも試せますので、これも有りかと。どうぞこちらの世界の月くん、協力しましょう。お風呂の中の ライトくんも、ほら出てきてこちらの私の足でも押さえなさい」

「わ、わかったよ…」

僕’が、最悪の事態に暴れだした竜崎の左手を両手でつかむ。
竜崎’は右足の付け根に肘を添えると体重をかけて内側に開いた。

「こうするともう閉じられません。月くんもやってみて下さい」

「勉強になるよ竜崎’!!攻めのお前に会えて初めてよかったと思えたよ!」

「滅茶苦茶ですあなた達は!!」

四肢を押さえつけられ、竜崎が叫ぶ。そして僕’までもがとんでもない事を言いだした。

「今まで男としてのプライドをズタズタにされてきたんだ…!竜崎、悪いけど僕’の相手もしてもらうからな…!」