「さーて………整理して話し合おうか」

紅茶の入ったカップを持つ指が震える。僕がこんなに気持ちを落ち着かせよう、落ち着かせようとしているのに、 こいつらときたらすっかり打ち解けているのが腹立たしい。

「なかなかこちらの月くんも紅茶を淹れるのがお上手ですね」

「おたくの月くんも上手なんですか?」

「ええまあ…あ、美味しいですね このフィナンシェ。」

「松涛に新オープンした菓子店のものです。私ハマってます」


  お ・ ま・ え ・ ら  。


「ちょっとは慌てたらどうなんだ…?自分が二人いるんだぞ!?ドッペルゲンガーって見たら死んじゃうんだぞ!?」

「『月くんがそんな非現実的な事を言い出すとは思いませんでした』」

「ハモるなーーーーーーーーーー!!!!」

い、いけない。夜神月ともあろう者が取り乱して。こんなの僕のキャラじゃない。それにしてもハモる竜崎がオモチャ屋の 店頭で集団でにゃーにゃー鳴いてる猫のぬいぐるみロボみたいでやたら可愛い。
…とか考えてる場合か?あああ、大丈夫か僕…二人いるって事は今日僕ら三人で寝る のかな…もしかして竜崎が二人ってすごく贅沢なんじゃ…?
ど、どうしよう今夜は眠れnight!?

「『月くん』」

「はっ!!僕が口元を拭っているのは涎が垂れたからじゃなく紅茶がだな…!」

「『私達の見解は一致しています。どうやら彼(私)は別の次元、俗に言うパラレルワールドからやってきたのだと 思います。』」

「お前らの方がよっぽど非現実的な事を言ってないか…?」

「『私は非現実的な事はありえないとは思っていません。月くん程頭は固くありません』」

見事なシンクロ率で再度ハモると、 もう一人の竜崎が…いや、長いからこれからは竜崎’(ダッシュ)でいいか。竜崎’は僕の竜崎を丸い目で見ると、楽しそうに言った。

「おや、やはりおたくの月くんも頭が固い」

「ではあなたの世界の月くんも?若いのにダメダメですね犯罪捜査をする人間は我々の様にやわらか頭でないと」

「僕はお前と違って常識があるんだよ!…て…おい………竜崎ダッシュ…もしかして、」

こみあげた生唾を飲み込む。

「こっちの僕って言ったけど、まさか僕ももう一人いるのか…?」

ダッシュがコクリと頷いた。忌々しそうに爪を噛みながら僕を見る。

「私は自分の世界でキラを追っていました。あなた方が階段から落ちて頭を打った衝撃で平行世界の空間に歪みが生じて、 私と月くんがこちらの世界に飛ばされてしまった模様です。ところで月くん」

竜崎’はじろりと僕を睨んだ。

「階段落ちのいきさつを聞いたんですが、あなた私を犯したんですって?」

ピキッと空気が凍った音が聴こえた気がした。竜崎’の口元はにたりと笑みを作っているが、目は全然笑っていない。 僕の竜崎はうんうんと頷きながら溜息をついている。

「ひどかったです…愛だのラブだのやたら囁く分性質が悪いです。おかげで全身がだるいし発熱はするし臭い台詞に 砂は吐くし」

「最後のはいらないだろ…。そ、それより、もう一人の僕もこっちに来てるのか!?」

竜崎’は音をたてて紅茶を啜り、薄い眉をしかめた。

「来ています。私達はプレイの最中でしたので、こちらの空間に飲み込まれた時もしっかりお互いの感触を 確認できました。確実にうちの月くんも来ていますが……」

「来ていますが、何…………。」

「おそらく私が意識を失っていたのをこれ幸いと逃げ出したのでしょう。ちょっと激しい行為を要求していたところ でしたので」

四次元ポケットでもついているのか、竜崎’がゆるいジーンズのポケットから取り出したものは、外国人並に巨大な、 ペニスを模したグロテスクな玩具だった。…待て。待てちょっと待て!!

「りゅ、竜崎’、お前激しい行為を僕に要求していたって!?」

こいつ、僕が目覚めた時なんて言ってたっけ?

「そうです。毎夜キラだと白状しろと私は月くんに」

「ぼ、僕に」

竜崎’が不気味なほど突起だらけのバイブをちろりと舐める。

「こういったものを入れて泣かせています。」
「ギャーーーーーーーーーーー!!!」

キャラとか言ってる場合じゃない。僕は心の底から悲鳴をあげた。僕の竜崎はぽかんと目を見開いて指を咥えている。

「あのう、つかぬ事をお聞きしますが…あなた、月くんが私にしたような性行為をおたくの月くんに行っているという事ですか」

「そうです。まあ趣味と実益を兼ねて」

「理解できません。そんな事をしても、月くんはキラだと白状するとは思えません」

「まあ白状といいますか、彼を二重人格だと仮定し、非情な行為によって私を憎んでいたキラが目覚めればいいといいますか。 血沸き肉踊る頭脳戦を繰り広げていた夜神月に戻ってきてほしいわけです」

「…それはわかります」

「もはやこれは恋かもしれないとさえ思っています」

「…それはわかりません」

だからキラじゃないって…!毎度おなじみの台詞を僕が吐く前に、竜崎’が僕の喉元へ刀の様にバイブを押し付けた。 そしてとても楽しそうに微笑みを浮かべる。



「この月くんも、こいつを入れたら泣き叫んで私を憎み、体内に眠るキラが復活するかもしれませんよ……?」






誰か助けてください(セカチュウ)!!
(この物語は2004年です)




「落ち着け竜崎’!!お前の世界の僕と混同するな!!そっちの世界のお前が僕を犯すように、こっちの世界の お前は僕に犯される立場なんだ!!」

慌てる僕に反応して竜崎が熱があるのも忘れて声を張り上げた。

「はあ!?何言ってくれてるんですか月くん!確かに入れられてしまいましたが昨日は疲れてたんです 元気な時は負けませんよ!!」

「じゃあなにか?お前は僕に入れたいのか!?」

「男として入れられるなんざまっぴら御免と言ってるんです!!月くんは確かに美青年ですが 服のセンスは悪いし髪は薄いしそもそも男のケツには興味ありません!」

「…ひ、人の気にしてる事言っちゃいけないんだぞ…!!そもそも万年同じ服のお前に言われたくない!!」

「同じなもんですかこのシャツとジーンズは365着持ってきています!」

「お前マリネラ王国の国王か!!!!」

必死の僕に必死で反論するうちの竜崎。どんどん論点がずれていく僕らを眺めながら竜崎’は退屈そうにバイブのスイッチを入れ、 うねうねと蠢しながら人事のように呟いた。

「成る程、入れる側と入れられる側、そこが私の世界と違うところですか…それでは私はうちの月くんを捜しますかね」





いやあベタベタですね!楽しいです:笑 L受話ですよ!月受じゃありませんよ
年末で時間が限られてるのとキリがいいので次回へ続く!
短くてすみません;なかなかエロにならなくてこれまたすみません;;
マリネラ王国にはパタリロ8世という王様がいます。
月は小学生の頃はそれなりに漫画を読んでたと思います