■御伽噺をボクと一緒に■




手錠生活二週間。稀代の名探偵に恋焦がれている僕。

だけど彼は、僕がキラじゃないとわかった途端に僕から興味を失った。
最近では無視同然の生返事。僕の焦りは耐え切れないほど大きくなっていたのだ。

「ね 竜崎、このデータなんだけど」

「………」

「聞いてるのか?竜崎、犯罪者殺しの前科がある者のリストを作ったんだけど」

「松田さん、白妙のチーズケーキを買ってきていただけませんか。あれを食べないとやる気が出ません」

今朝から竜崎は僕を完全無視だ。松田さんが心配そうに僕に小声で話しかける。

「竜崎と喧嘩でもしたの…?月くん…二人とも痣だらけだし」

「よっぽどチーズケーキが食べたいんじゃないですか?」

「そうか…  じゃあ、僕急ぐね!!いってきまーす!!」

にこりと返した僕の言葉を真に受けて、松田さんはフリスビーを投げられた犬みたいに走っていった。竜崎はたしかに 機嫌が悪いよ。僕のせいで。

昨日、僕は我慢できずに竜崎を抱いた。なだめすかして、愛を囁いて、どれだけお前が素晴らしいか讃えて押し倒して 蹴り返されて、殴り合いの延長の様に挿入した。そんなやり方はしたくなかったけど、その間だけでも真剣に僕を 見てくれている事が嬉しくて止められなかった。

竜崎は最初のうちは、ふざけるなとか、これもあなたの作戦ですかとか抵抗の意志を叫んでいたけれど、長い 殴り合いで疲れ始めたのは万年睡眠不足の竜崎が先で勝利したのは若さを誇る僕。動きが緩慢になってきた竜崎を 組み敷いて体内を味わい始めた頃には、竜崎は時々苦しそうに仰け反る以外は唇を固く結んで一言も発しなかった。

繋がっても、心と心を結ぶどころか更に遠くなってしまったみたいだ。

まあ当然だけど。当然だけど、竜崎。僕は…

「竜崎。ちょっと寝て来い」

相沢さんが竜崎のパソコンを終了させる。

「何するんですか」

「やる気もない、体調も悪い、なら寝てるしかないだろう。」

「私は体調が悪くなんか…」

やる気はないんだな。

「そんな真っ青な顔してただ座ってられても、悪いが今の竜崎は邪魔でしかない。…寝ろ」

相沢さんは半端に鋭い。そして僕は初めて相沢さんに対して感謝する。

「竜崎、僕が部屋まで送るよ…というか、手錠があるし僕も休むしかないんだけどね」

「そうだ、月くんも休んだ方がいい。二人共ほとんど寝てないんじゃないか?」

「そうですね…じゃあ、今日は少しだけ休ませてもらいます」

あなた達が休みすぎなんだよ、と僕は心の中で毒吐きながらも嬉々として鎖をひっぱった。不機嫌に引きずられていく 白い顔。金属の冷たい扉が閉まり、彼らの声が聞こえなくなったのを確認すると僕は鎖を手繰り寄せる。よろよろと 僕に向かってくる竜崎がひどく愛しい。ひどい事をしたのだけど、僕によって彼の肉体が変化を起こしたという事が 堪らなく嬉しい。
避けられている今、そんな事さえコミュニケーションに感じてしまう。
僕はよろめく竜崎を抱きすくめた。監視カメラはあるけれど、ふらつく彼を支えようとした反動で、に見えるだろう。 まさか今見ているとも思えないし。

「離してください」

抑揚の無い声が冷えた廊下に響く。

「竜崎…やっぱり熱があるね。僕は後悔してるんだ。謝りたいんだよ。あんな乱暴な事をして…」

「謝る気があるのなら、まず離してください」

「お前も聞く態度を示してくれ、ただ僕はお前が……」

背筋が凍る。竜崎の闇の底の様な瞳が僕を射抜く。それは全身で拒否を叫んでいた。

「離せ」

怒りに満ちた低い声。僕は思わず僕は竜崎から体を離す。それは、自然と彼を突き飛ばす様な形になった。

「あ ……!」

「う、うわ…!!」

僕らが立っていたエレベーターホールの下は階段。
鎖に繋がれた二つの短い悲鳴は転がりながら階段のはるか下へ。そして暗転。気づいた時には、これは夢かと叫びたくなる 事態が僕らを待っていた。






ぺち

ぺち

ぺち

ぺち

誰かが僕の頬を叩く。ちょっと待って、今いい夢の中だ。竜崎が甘い声で僕に好きですと、そんな優しい夢の中。

ゴブゥ!!!

「いっ痛 −−−−−−−−−!!!!」

「起きてください、私の愛しい月くん」

グーで殴ってきやがった!!

「りゅ…りゅうざき、グーはないだろ…そりゃあ僕はお前にひどい事…でも今グーは!!」

ん?

今、なんて言った?愛しい、とか言わなかったか?

「じゃあ氷水でもかければよかったですか。それとも、」

僕の胸倉を掴んでにたりと笑う。そして僕の耳元に竜崎の唇が触れるほどに近づいて、

「慣らしもせずアナルに私のペニスをぶちこまれる方がよかったですか」



ちょっと待て。


「お…お前、竜崎…だよな……?」

「とぼけるのも大概にしろ夜神月。私はLで竜崎であなたはキラです」

「僕はキラじゃない!!…けど、本当にお前、…竜崎……!?」

僕は今更ながら、竜崎と逆方向の手錠の先に重みを感じ、鎖のむこうに横たわる人物を見た。



   竜     崎    。



二人いる−−−−−−−−−−−!!!



「竜崎!!竜崎、起きろ!起きてくれ!!」

「月くん私の体に乱暴しないでください」

起きていた竜崎が、倒れている竜崎の頬を叩く僕の肩を掴む。ややこしい!!

スイッチの入った人形の様に唐突に、倒れていた竜崎が目を覚ました。

「こんなところに鏡がありましたか」

僕は竜崎の手をとり、僕にとんでもない事を囁いたもう一人の竜崎の頬を触らせる。
竜崎は寸分違わぬ第二の自分の頬や髪を撫で回し、唇をひっぱり、ちょっと小首をかしげて何か考え(か、かわいい!)、 指を咥えて挨拶した。

「…こんにちは」

「こんにちは」

もう一人も鏡の様に指を咥えて挨拶する。なんだお前らその落ち着き!!

「こんにちはじゃないだろう!!もっと事態に動揺しろ!」

「お言葉ですが月くん」
二人の竜崎が同時に言葉を放つ。
「動揺したところで解決に繋がるとは思えません。ここは部屋へ帰ってゆっくり考えましょう。他の皆さんはおそらく もっと動揺してしまうかと思われますので、速やかに。(音声多重)」

なんだこれ……双子コントか……?

「そ そ そうだね はは、はは…は」

乾いた笑いとハイパービートを刻む心臓の僕は、開いたエレベーターに二人の猫背の探偵を押し込んだ。どうするんだ僕!!







コメディですよー!攻L…新鮮だ…