ゆるく快感の波が引いていったのだろう、玩具は 色の剥げ落ちたソファに寄りかかると、安堵の溜息を漏らした。
いつまでも射精できないよりは、射精感など引いていってしまう方が楽だ。
玩具は先ほどの熱が嘘のように 冷え切った瞳で私を見た。

「ありがとうございます」

長い前髪から覗く黒い瞳にはその言葉の感情が伴わない。上辺の礼を吐く乾いた唇の皮の捲れに嫌悪を感じた。

「何度教えても間違える…。礼は施しを与えた時に言うのだ。止めた時ではない」

「っ………!」

額を狙って投げつけた歌本をくらい、玩具が喉を鳴らす。

「唄え」

私の要求を聞くと、じろり、と訝しげに玩具の黒い瞳がこちらを見上げた。

「字は読めるだろう。曲を選べ。」

玩具は 私の考えを探るように瞼を半分下ろし、未だ鋭さを失わない瞳で私を観察していたが、そんな事に意味は無いと
悟ったのかぱらりとページをつまみあげた。じゃらり、と鎖が耳障りな音をたてる。紙をめくる乾いた音。
神経に障る不協和音。苛々する。丸めた背中を蹴り上げたい衝動に駆られたが、純粋な暴力は神に禁止されて いる。
何故、神はこの痩せた男にこれほど執着するのだろう?
部屋が静まり返っている事に気がついた。玩具の骨ばった細い指が、ぽつんと一つの曲目を指し示していた。

「これか」

こくり、と玩具が頷く。入力すると、機械は甘く優しいメロディを奏ではじめた。

” When You Wish upon a Star ”

聴いた事がある。嘘をつくと鼻が伸びる人形の映画に使われていた。心をこめて星に祈れば、
星は願いを叶えてくれるという曲だ。まるで、神と私の様な。−−−−玩具にとってこの曲は何だ?
夢も希望も奪ったというのに。
まだ、叶いもしない夢を見ているのか。

「曲が始まっている。唄え」

玩具はモニターに映る夜空を見上げていた。

「聴きたいと思っただけです。唄う気はありません」

そして振り向くと、ぽつりと呟いた。

「あなたの歩む道にも、星の光が届きますように」


どういう意味だ。

まるで、今 私の足元が暗闇だとでも言いたげに。
闇の中、道に迷っているとでも言いたげに。

「……その言い方は気に入らない」

玩具はモニターから視線を動かさない。では、星の加護がありますように、とぞんざいに言い放ち、
光る画面に見入っていた。
−−−−星の加護だと?
そんなものはいらない。私を護ってくださるのは、神。あの美しい神だけだ。過去も今も、未来も。

「!?」

ソファの上で膝を抱えていた玩具の手枷から延びる鎖を勢い良く引くと、息を飲んだ軽い体がどさりと
床に転がり落ちた。肋骨の浮いた胸を座面に押し付け、再度問う。

「まだ唄う気はないか」

座面に片頬を押し付けた玩具が私を見つめる。
角度のせいか、いつも以上に反抗的な瞳に思えた。

「ありません。」

神を冒涜するその視線。神に逆らう意志を、淡々と吐く乾いた唇。
全てが嫌悪を掻き立てた。

「−−−−では私が唄わせてやろう」

玩具の唇が微笑めいた形に醜く歪む。

「どうせ、新しい道具でも月くんが送ってきたのでしょう…。私が泣き叫ぶ声でも
聴かせてやるつもりですか?あなた方の発想はいつも… −−−−−−−−−−−− !!!」

ざり、と後膣にあてがわれた物体の違和感に、玩具の腰が緊張した。みちみちと狭い入り口に侵入を試みているのは、
店に備え付けられていたマイク。それを慣らしもせず、玩具の内部を割り進めようと私は持ち手を握る
腕に力を込めた。

「ッア……………!!!」

ざらついた表面の太い先端が、弱い肉へ侵入しようとする痛みに玩具が思わず声をあげる。
気にかけず更に菊座を割り破ろうとマイクを押し込もうとするが、入り口は固く閉じて潤いのない異物を
拒んでいた。

「仕方が、ないな。汚れるのは面倒だが…」

インターホンを押し、オーダーする。注文はパフェ。店員は、マントを肩に羽織らされ
息を詰める男の事など一瞥もせず、糖質と脂肪の寄せ集めが詰まった安っぽい器をテーブルに
置くと、爪を弄りながら去っていった。
届いた品はクリームとジャムで埋め尽くされた低コストの代物だ。だが、それでいい。
その中にマイクを沈ませ、ぐちゃぐちゃとしばらく掻き回し、べっとりと甘味がまとわりついた
それを再び肛門にあてがうと、私は音声のスイッチを入れた。

べちょり、と淫猥な音が大きく室内に響く。

「っ……!!」

その汚らしい音に玩具が頬を僅かに歪ませた。潤いを得たマイクに力を込めると、
肉門はきゅうと閉じきっていた入口を開き、周囲の皺を一部巻き込みながら異物の先端を わずかに受け入れる。

「ぅっ…… うぁあ、 ぐ……っ」

だが旧式のマイクの先端は予想以上に太く、なかなか奥へ潜り込ませる事ができない。
玩具の額から汗が噴き出した。痛みを訴える神経は、瞳から涙を滲ませる。
左右に捻りながらねじ込みを試みる度に、玩具の喉がくぐもった嗚咽を漏らし、
捻りこむ動きに合わせてねちゃねちゃとした粘性の音を マイクが拾う。
羞恥を掻きたてるあまりの淫音に、青白い肌を紅潮させて玩具が声を荒げた。

「…あなた、は……!!どうして、ここまで…!!」

何かを言いかけて、ひぃ、と喉を鳴らす。
ずちゅり、と一番太い部分が玩具の内臓へ侵入を果たしたのだ。

日常あれだけの事をしているのだ、この程度で壊れたりはしないだろう。
本来ならば潤いなど与えずに、このざらついた異物を押し込んで、目茶目茶に内部を擦って
傷つけてしまいたいのだ。
出来る事なら殺してしまいたい。神の寵愛を受けるこの男を。

内臓に潜り込む球状の物体の圧迫感に耐え、小刻みに震える男の顔は汗と涙で汚れ、 まるで経験の少ない少女の様だ。
固く唇を結び、苦痛に耐えるその姿は少なからず私の薄暗い欲を満たす事が出来た。

「あ、あ……!!」

すっかり覚えてしまった玩具の淫らな場所へ僅かに異物を進めると、艶めいた声が放たれた。
私は反響音効果のボタンを押すと、甘い声を上げたそこでマイクを回転させる。
くちゅ。くちゅり。狭い個室に玩具の腸内音が大きく木霊した。

私は録画を続けているビデオカメラを振り返った。
神。ご満足いただけますでしょうか?
あの男の音です。高らかに歌い上げています。さあ、神。ご鑑賞ください。曲目は−−−−−−−

青く静まりかえっていた画面に再び夜空が映し出される。
流れる音色はWhen You Wish upon a Star.途切れる事のない様エンドレスで入力する。

「さあ、唄え…神の為に。その後ろの口で、唄うがいい!」

「………ぁう………うっんぅうっ、ぐっ………」

数年の調教を経ても狭いままの腸管が、健気にマイクの太い頭部の形に馴染もうと肉を蠢かす。
その肉壁の歌声は淫らに湿り気を帯び、聴衆を楽しませる。
どこか郷愁を誘うメロディに合わせてマイクを挿入し、引き摺りだすと、その度にスピーカーから
ちゃぷ、ちゅぷ、と派手な粘音が鳴り響いた。

「−−−−!!!」

腸管の歌声に、突如ノイズが走った。ざり、と乾いた音と共に玩具が声にならぬ悲鳴を上げる。
おそらく中を激しく動く内にマイク頭部の潤いが剥がれ、ざらついた表面が肉壁を苛みはじめたのだろう。


「イッ………  ぅあ゛…………!」

焼け付く痛みに退けた玩具の腰を掴み、私はスピーカーのヴォリュームを上げた。

「When you wish upon a star.」

「ひぃいあああ!!」

ずちゅり。ざりりり

「Makes no difference who you are」

「うあああ!!あ゛あ!っあー!!」

くちゃ。

「Anything your heart desires,」

「あ゛−………… ぁ……………………」

「−−−−Will come    to you 」



ちゅぷ。ざりりりりりりりりりり

あまりの羞恥と掻き毟られる痛みで玩具の体は悪寒に冷えきり、唇は死体の様に青ざめて震えていた。
だが快楽の奴隷として慣らされた体は痛みに支配されつつも性感を拾っていたのだろう。
びくびく背筋を痙攣させると、開ききった唇から氷柱の様な涎をたらし、数度肛門を収縮させた。
中で達したか。

「痛みさえ快楽に変換できる体になってきたか…?変態がッ……」

違う、と玩具が言いかけた気がしたが、そうであろうとなかろうと返答に意味はなかった。
マイクを乱暴に引き抜くと、躊躇わずにまたそれを玩具の直腸に挿入する。
ぞぞ、と掠れた音とねちりと粘った音が交差し、それに玩具の悲鳴がからみつく。
いかがですか?神。この歌は。
これが私からの、あなたへ捧げる聖歌です。

よくやった、魅上。そのお言葉だけが私の福音。



インタホーンが鳴る。
「お時間ですけどお、延長されますか?」

退屈そうな女の声が耳に障った。


「では、夜まで」

憐れな歌姫よ。引き続き音楽会だ。
すべては神の為に。私の気高き美神、夜神 月の為に。
漆黒の闇が意識を奪うまで唄わせてやろう。

−−−−その時、闇に向かってお前は何を祈る?




  END







照はカラオケに行ったりすると思います
スポーツクラブに入ってるくらいです。クラブ仲間と行ってたりすると笑えます
「魅上さん、歌うまいよねー」なんて言われて調子こいて
練習に一人カラオケ行ってたりすると思います
引用の歌詞は、製作されてから70年たっているので アメリカの法律でも著作権切れのはず…
も、もし間違ってたらご連絡ください

今回、擬音祭りでした ひかないで…!