■下車後■


夜神月が狭い個室の扉を閉め、足音が遠のいても私はしばらく動かずにいた。いや、動けずにいた。 裸の下半身が冷えていくのをを身の内から感じ始め、やっとのろのろと立ち上がり、床に投げ捨てられたジーンズと下着をつまむ。 これを着るのか。うんざりしたが、下半身裸で外に出るわけにもいかない。 足をジーンズに通そうと片足をあげると、後孔から、つう、と生暖かいものが腿を伝う。夜神が私の中に吐き出していった体液と血。
急激にこみ上げる吐き気に、しゃがみこんで便器の蓋を開け、私は嘔吐した。
そして不潔な空間にたちこめる臭気に気分が悪くなり、空になった胃から胃液を搾り出す。

陵辱か。いや、あんなのはただの暴力だ。あんな事で私を屈服させたとでも思っているんだろうか。触れば反応する、 貫けば痛みを感じる。それだけの事だ。それだけの。

そう自分に言い聞かせようとしている事に気づく。

こんな事はたいした事ではない。行為そのものは。だが、精神の奥深くが、傷ついていた。 無理矢理体を開かれる事がこんなにも苦痛だとは知らなかった。数え切れない程見てきた強姦事件の被害者の気持ちを 思い知り、自嘲する。
軋む体をなんとか動かし、服を身に着けると、ゆっくり扉を開けた。
目の前の鏡の中の自分と目が合う。…なんだその顔は。涙の痕が灰色に固まった、疲れきった情けない顔。

私は唇の片端を引き上げて鏡の中の自分を哂い、水道の蛇口を捻った。勢いよく出る水で手と顔を洗う。冷たさが心の平静さを 取り戻してくれる。そう思い、自分はやはり平静ではいられなかったのだと打ちのめされる。
もっとうまく、飄々と受け流すつもりだった。動じなければ夜神も萎え、解放は早くなると判断した。だがそれは 夜神の怒りをあおる結果となった。では言うとおりにすれば、さっさとこんな無駄な時間は過ぎ去るか。
夜神が求める下品な言葉を、すべて口にした。これはただの文字の羅列。そう思いながら。
だが、どうしても唇が震えた。私がどう思おうと、相手を喜ばせている事にかわりはないのだ。 私の口から漏れる言葉が、相手のいやらしい欲望を満足させている。跳ねる体が、生理的に流れる涙が、こらえきれずうめく声が、 すべて夜神を楽しませる。それは叫びだしたくなる程の屈辱−−−−敗北感だった。

改札を出ると、4月の風が頬を撫でた。
なにか甘い匂いがする。…花か?風にのって聞こえるのは幸福感に満ちた人々の笑い声か。
日本の春は暖かいな。
ずいぶんと外に出ていなかったので、風がこんなに気持ちいい事を忘れていた。
吹き飛ばせばいい。こんな記憶も、感情も。

夜神は一部始終を記録した、と言っていた。はったりかもしれない。そんな脅しには乗らない、と 堂々としていればいい。そんなものを流出させて困るのは彼も同じだ。

「ワタリ。迎えをよこしてください −−気分が悪いので今日は帰ります」
ワタリへ電話をすると、川沿いのベンチに腰を下ろした。目の前を様々な人間が通り過ぎる。
子供。女。スーツの男。かれらに私はまるで見えていない。それがとても楽に思えた。
体と精神を掻き抱かれ踏みにじられ、未だまとわりつく他人の感触はなんという重さだろう。

夜神月がキラであれば。キラであれば。キラであってほしい。
最後は、お前が追い詰められ壊れていく様を私が見ていてやろう。

黒塗りの車が砂埃をたてながらベンチの前に停まった。
私はのろりと立ち上がり、弾力のあるシートに身を沈めると、ちいさく膝を抱えた。


end


エピローグ的な感じで。
エロは入んなかったですすいません…。でもなんかどんどん
続いちゃいそうです…。本当はトイレに誰か入ってきちゃって
にいちゃんそんなカッコでなにしてんのへへへ なものとか
考えたのですが、しょっぱなから飛ばしすぎだろうと自重。
和姦ならLたんは結構楽しそうに和気あいあいで事に及ぶ
気がします。