■月蝕サァカス■



ぼうと揺らめく蝋燭の火が、舞台の中央に居る者の暗闇に慣れた神経に障る。

ぽつ、ぽつと小さな炎は増殖し、天井に吊るされた古い照明が青白く痩躯を浮き上がらせた。

まぶしい。

だが光がこちらに集まり客席が暗くなった分、人々の視線があまり感じられなくなった事は救いだ。


「紳士淑女の皆様、次なる見世物はこれまた憐れ、化け猫に犯され狂った女が産み落とした半人半猫、 "L"でございます。このL、人間の振りをして隠れるように生きてまいりましたが私共サァカスが遂に捕獲、 時間をかけて調教し本日皆様へ初のお披露目でございます。さあとくと御覧あれ」

わざとらしい蝶ネクタイの老人が口上を述べると、舞台中央で膝を抱えて座っていた「 L 」と呼ばれた青年が、 唇を噛んでゆっくりと四つん這いの姿勢に変わる。ああ、その全裸の腰にはゆらりと長くしなやかな、艶めくビロウドの黒い尾が。 やや長めの髪から可愛らしく覗くのはまぎれも無い猫の耳。

「このL、人間とは違い面白い所に性感帯がございます。どなたか、舞台に上がってお試しにはなりませんか」

事前に説明は受けていたが、Lは口上を聞くとぴくりと尾を逆立てた。

表情には現さずに済んだ怯えを尾は耐える事ができない。

俺が、と名乗りを上げた太った男が舞台にあがる。アルコォルが煙る口臭にLは思わず顔を背けた。

「恥らってんのか?結構かわいいじゃないか。どれ、人間と違うところというと…」

「ひぃ !! 」

男がいきなり尾を掴んだ。猫さながらに飛び上がるLに客席から歓声が沸く。

「お、やっぱここか。どれどれ、こんな風にされると気持ちがいいんじゃないか?」

男の無骨な掌がLの尾を擦りはじめた。尾はびくびくと上下左右に跳ね、脊髄に甘やかな痺れをおこさせる。 声を耐えようと更に唇を噛み締め、客席を見ぬ様舞台の袖を眺めると、こちらを睨む美しい顔と瞳がぶつかった。



−−−−月団長。


夜神サァカス団の長、月。亜麻色の髪の若く美しい−−−−−−恐ろしい青年。

自分を睨む月の瞳が何を物語っているかLにはよく解っていた。


声を出せ。練習通りにやれ。


わかっている。わかっているが、あんな事、正気ではできない。だが練習通りにやらねば舞台を降りた後 待っているのはまた鞭と食事抜きだろう。
それでもよかったが。

松田さん、とLは誰にも聴こえぬ吐息の様な声で呟いた。

男の指が耳に触れる。

「−−−−−ッミギャッ……………」

脳内をくすぐられる様な刺激に、あられもなく声を出す。快感を感じると反射的に漏れる猫の如し嬌声は、 悪夢の様な訓練で身に着けた。

「ここもいいか。ほほう、前をまるで弄ってないのに勃ってきた。この尾は男根並の感度か、そうかそうか」

「ミッ……ミィ……ミィイイイ!!ニャァアア!!ニャアァア!!!」

尾を激しく上下に扱かれ、猫耳の内側に涎で濡れた舌が差し込まれる。

「ミャ…にゃあぁあん!!!」

脳の皺を直に舐められているかの様な強烈な快感に、惨めに腫上がった紅色の亀頭はぱっくり口をあけ、 びゅくびゅくと舞台に半透明の粘液を放ったのだった。



「化猫Lは父猫の性か狂った母親の呪いか大層淫乱、皆様の施しをいつも待っております。 今宵はこれまでですが当サァカスは次の満月までこの地で毎夜の宴。どうぞまたのお越しをお待ち申し上げております」

割れんばかりの拍手に歓声。
幕が下がってもLへのコォルは途絶えることなくLの鼓膜に響いていた。

公衆の面前で射精してしまった。しかも一度も陰茎に触れることなく。

あまりの恥辱に涙すら出ない。

呆然と舞台に横たわっていたLの背中を、よく磨かれた革靴が蹴りつけた。

「いつまで寝ているんだ?さっさと掃除をして檻に戻れ」

この美しい唇はいつも恐ろしい事を言う。投げられた布巾でLは自らの粗相をふきとり、のろりと立ち上がった。 逆らう事などもっての外だ。自分はこの男に従うしかないのだ。

松田さん、どうか無事で。

心中でLはそう祈る。

檻に戻ると、そこにはわずかな砂糖菓子の入った皿が置いてあった。

薄い毛布に包まると一粒それを舌に乗せる。

それは甘味の幸福を一瞬もたらした後瞬く間に溶けていった。
あの頃の自分の様だとLは思う。
壁に寄りかかると、以前他の動物が使っていたのだろう、生臭い獣の匂いがする。
今が何時かもわからない。Lはただ冷たい鉄の柵を見つめていた。








突如パラレル…!普段禁じ手の「ああん」言ってみました
だって猫だから!「にゃあん」言うから猫!!動物だと「にゃーん」とか
「くうーん」とか平気なんだよな不思議です。
これはのんびり長期に進めてきます。
更新も色んなのをやりながら時々これも…て感じかと思います