電車が揺れる。
揺れに合わせて僕の指がさざめく。流河は膝をがくがくと震わせながら、小さくも荒い息をはいていた。

こうなるのは、いとも簡単だった。

電車に押し込まれた僕は、人波に流されるふりをしながら一気に車両の隅へ流河を追い詰めた。密閉感から のがれる様に流河が体をねじる。僕は隅に立つ流河におおいかぶさる様に、乗客達に背を向ける位置に立っ た。今日はハーフサイズのスプリングコートを着てきた。前に立つ流河の膝ほどまでが隠れる長さだ。これ で後ろの乗客達にこれからの僕の行動が見える事はない。

少しでも空気を吸おうと体をこちら側にひねった流河を手伝い、こちらを向かせる。僕と流河の体はお互い 正面を向いて密着していた。流河はげんなりした表情で、この混雑状況を諦めている様だった。
しばらく僕は流河を眺めていた。背丈は同じくらいかもしれないが、猫背のせいで少々僕がこいつを見下ろ している。僕の鼻のあたりにこいつの髪がゆれる。クン、と嗅ぐと意外とあまい、いい香りがした。

視線をやや下におろすと、大きく開いただらしのないTシャツから綺麗な形の鎖骨が見えた。そのギャップ が不思議な眩暈をおこさせる。もっと見たい。お前の隠された部分を、もっと。まぶしい光の下でなにもか も暴いてやりたい。それは暴力的な衝動だった。

車内に響く走行音が激しくなる。電車が地下に入ったのか。そろそろ計画通り事を運ぼう。
僕はゆるりと流河の太腿に右掌をはわせた。怪訝な瞳で流河が僕を見上げる。僕はにこりと微笑み、こいつ の下腹部の中心を握りしめた。

「!!!」
びくりと流河の体がはねる。そして僕を睨み、小声でささやいた。
「悪ふざけはもうやめましょうよ…」

悪ふざけ?確かに悪ふざけだけど、これは本気の悪ふざけだよ。

僕は返事をせず、ジーンズの布の上から流河の股間をしごきはじめた。一瞬流河は息を飲み、目だけで周囲 をきょろりと見渡した。はは、お前でも誰かに見られると恥ずかしいんだね。普段は、人目など気にしませんと いう態度で、だらしのない服装と姿勢のくせに。
大丈夫、誰にもわからない様に してやるから。見られているお前がどうなるのかも面白そうだけど、この場合僕が捕まっちゃうかもしれな いしね。

流河は電車に押し込まれた時、身を守るかのように両腕を胸の下あたりに持ってきていた。そしてその腕は 周囲からの圧迫で動かすこともできない。そう、下半身を弄ぶ僕の手を払う事ができないのだ。可哀想に、 守ろうとしたその腕がその身をさらす仇になるなんてね。
だが流河は今できる限りの抵抗を試みたのか、動かせない腕で必死に僕を引き離そうと、僕を押した。無駄 だよそんなの。わかってるだろう?すると今度は無駄な事をしても仕方がないとばかりに、だらりと力を抜 いた。僕を見据える目が、心は抗っている事を語る。こいつらしいな。でも無駄だってば。心の抵抗なんて、 男ならばわかるだろう?
快感の前には無力だという事を。

流河の性器をゆっくり指の腹でなぞってみる。布の上からでもふくらんできているのがわかる。僕は流河の ジーンズのジッパーを下ろし、手を差し入れて下着の上からそれを握りなおした。流河の唇が瞬間的に薄く 開いたが、すぐまた閉じられた。素直じゃないくせに、ここは正直だな。伝わりやすくなった刺激にぴくり とまた固くなってきたじゃないか。
僕は流河の下着をずらし、下から手を入れて今度は直に刺激しはじめた。人差し指と中指で、陰茎の付け根か ら上をざわざわとなでる。敏感な部分へ到達し、親指も加えてくりくりとひねってやると、わずかに目を細 めて僕から視線をずらした。恥ずかしいかい?流河。視線をずらした時点でお前の負けだよ。

腰でひっかかっているジーンズのボタンは流河の先端を圧迫し、僕の手の動きを邪魔していた。こんな邪魔 なもの、先にはずせばよかった。僕はボタンを器用に片手ではずすと、流河は急に泣きそうな顔をした。


体より2まわり程大き目のジーンズは、するりと足の付け根まで落ちてしまったのだ。

この混雑でなければ膝まで落ちてしまったかもしれない。崩れた流河の顔にわくわくした。いいよ流河。もっ と見せろよ。一枚一枚、お前の心の薄絹を引き剥がしてやる。
僕は流河の下着を一気に下ろした。下半身が露わになる。流河の唇が恥辱にわななく。僕は先端の割れ目を 人差し指の爪でつっついた。そのままなめらかな肉に指を割り入れる。途端にぬる、と透明な先走りがあふ れだした。流河は唇を噛み、目の縁を紅色に染めてあらぬ方向を見つめていた。それで無表情を作ってるつ もりかい?まあ声を出さないだけ褒めてやるよ。でもおかしいね。下半身はこんなにも表情豊かだ。

声を押し殺し、形の良い薄い唇は噛み締められ赤く色づいている。体の奥から沸きあがる熱が、心を病める 子供の様な瞳の縁を赤らめる。病的なまでに白い肌に、この赤は異様なまでに扇情的だった。こんなー男な のに。柔らかいところなど一つもない、男なのに。だが普段人を喰った態度のこの男が、必死に平静を装おうと唇を噛んで快楽に 耐えている様は、僕の中の性的嗜虐心をいたく刺激したのだ。

僕は先走りでぐちゃぐちゃになった流河の性器をゆっくりこすりあげた。五指を使い、丁寧に、先端からあ ふれる透明な粘液をそれに塗り広げる。すべりがよくなった男性器は更に敏感になり、びくびく喜びに震え ていた。流河の見開いた瞳に動揺が走る。自分の体の反応が信じられない、とでも言いたげに。
性器を握る指の動きをずちゅずちゅとはやめ、また尿道口をぐりぐり虐めると、見開いた目を更に見開き、 体をわななかせた。ここ、相当感じるんだ?そういやこの前は随分早くイってしまったね。今日はゆっくり 楽しまないと。

がくがく膝を震えさせ始めた流河を見て、僕は快感に涎を垂らすこいつの性器から手をはなした。そらして いた目が、うかがう様に僕を見る。まだだよ。まだイカせてあげない。僕は流河のものから溢れるいやらし い粘液を中指に入念にのばし、細い腰の後ろに差し込んだ。

つぷり。



「!ああ!!」


反射的に、初めて流河が声を上げた。
何事かと周囲の数人がこちらを見る。それに気づいた流河は、事態を察知してまた息を殺してうつむいた。 そうだよ流河。見られて恥ずかしいのはお前だ。もしこの状態が人目にさらされれば、僕が何食わぬ顔で お前から体を離してしまえば。お前は、下半身を露わにして、先端からいやらしい汁を垂らしながら電車 に乗るド変態にしか見えないよ。本当は、同性の痴漢に襲われている哀れな獲物だというのに、ね。

後ろへの挿入はさすがに予想をはるかに超えていたのか、流河の瞳に怯えの色がうかがえた。僕も本当は ここまでする気はなかったんだ。でも…お前が悪いんだよ、流河。そんな色っぽい顔をするから。お前に そんな自覚はまるでないんだろうけど。面白くてたまらないよ。僕はゆっくり指を中に沈めはじめた。

「っ……!!!」

流河はなんとか声は殺しているが、顎をのけぞらせ、白い喉を僕に晒した。喉元にかぶりつきたい衝動に かられるが、僕もそれを耐える。はぁはぁと小さく熱い吐息を漏らし、立っていられないのか車両の壁に 力をあずけたのがわかる。僕の指は、狭い肉に進入を拒まれ、第一間接からなかなか先に進む事ができな かった。もっとローションなんかが必要なんだろうか。男にこんな事をするのは初めてなのでよくわから ないが、きっとそうなのだろう。

でも流河にそんな気を使う必要があるか? 答えは否。

「ぐ!!!」

くぐもった声を流河があげる。多分周囲に悟られまいとする、精一杯の悲鳴。

僕は力任せに指を押し進めた。流河がうめく。みちみちと狭い肉壁が指にまとわりつく。指一本でこれっ て…。女とは、まるで違う想像以上の狭さだ。ああ、お前進入させまいとかなり力を入れてもいるね。そ んな事してもお前が苦しいだけなのに。最初みたいに諦めて力を抜けよ。そんな計算も忘れてしまうほど 怖いのかい?悪いけど僕は優しくないよ、  
お前にはね。

ああ この骨ばった細い腰に、

もっと乱暴な事をしたら流河はどんな顔をするだろう。見たい。見たい。

指は根元まで流河の中に飲み込まれた。